■4DX®の新たな進化
「元々は、4DX®という劇場装置に対する可能性を考えていたんです。」「揺れたり、風が吹いたり、雨が出たりというわかりやすい効果だけじゃない。高さを感じる動きや、不安感を煽る動きなど、映画の演出をよりリアルにもできるのが4DX®なんです。」とプロデューサーの石山成人は語る。『パシフィック・リム』や「スター・ウォーズ」など既存の映画の4DX®上映が、その性能を100%使っているかと言えば、そうではない。なぜなら、元々劇場用映画は固定されたシートで観るのを想定して作られていて、2時間くらいはある。映画本来の魅力を増幅するのが4DX®の役目だとすれば、盛んに動かせばいいというものではないし、その動きや効果を使おうとしても自ずと限界があると思います。」(石山)
だがもし、元々4DX®のために映画を作ったとしたら?
「その発想が『ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!』のスタートです。」と石山。日本初の4DX®専用映画「ボクソール★ライドショー」は4DX®の効果を前提として生まれた映画。4DX®が持つといわれる11の効果を駆使して、演出効果を最大化させる。「ホラー映画を選んだのはまさに4DX®の効果を余すことなく体感してもらうためです。観客はこの先に何が起こるのかを全身の神経を研ぎ澄ませて感じ取る。後ろから忍び寄る気配や、この扉の向こうから何がくるのか?ドキドキしながら楽しむのに4DX®ほどの装置はない。アクションとともに、ホラーというジャンルは4DX®と仲良しなんです。」(石山)
■プロジェクトのスタート
プロジェクトのスタートについて、制作プロデューサーの青木基晃が言う。「2015年の春くらいでしたか、ユナイテッド・シネマさんと話していた時に4DX®の可能性をいろいろ追求してみたいと思いました。そこからいくつか企画を出して、4DX®の様々な特性や動きとの相性を考えてホラー、しかも「見世物小屋」というコンセプトで制作してはという話はしてました。見世物小屋って恐いという以上に怪しい、いかがわしいみたいな要素もありつつ、ちょっとワクワクするような部分があるじゃないですか。移動遊園地のダークな雰囲気などもとてもアトラクションぽくて今回の映画に反映してみたいと思いました。」タイトルのボクソールも英国にあった世界初の遊園地として有名な呼称である。
そこから先はクリエーターの領域である。「日本初のチャレンジを「面白い」と思ってもらえるスタッフをそろえることが大事でした。」(青木)そんな中、制作プロダクションであるダブから、白石監督が「おもしろいと言っている」と連絡があった。白石監督と言えば、日本のホラー映画界では知らぬものはいないビッグネーム、『シロメ』『ノロイ』「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズなど、その名はホラーファンの間で知れ渡っている。その彼が「日本初の4DX®映画」に可能性とおもしろさを感じでくれたのである。プロデューサーはもちろん、この人選に飛びついた。「そうですね。今まで、多くのホラー映画を作ってきて、様々なチャレンジングな手法で映画づくりをしてきましたが、4DX®で作るホラーというのは魅力でした。ちょうど劇場で4DX®の洋画をみる機会があって、体感しながら、「ああ、この効果を最初から演出に盛り込んで映画を作ってみたらおもしろいだろうな」と思ったんです。」(白石)白石監督は、この状況からスタートした企画に魅力を感じ、結果的には脚本から監督、撮影から出演まで4役をこなすこととなった。
「今までの映画と明らかに違いますね。映画とアトラクションの間の存在。ジェットコースターに乗ったような。
だからPOV(主観視点で撮る映画)のフェイクドキュメンタリーというのが、この映画のもつ即興性やスピード感を表現するのに最適な手法だと思ったんです。女子高生アイドルの廃校脱出という設定で制作スタッフと共にプロットを詰めていきました。ホラーファンはもちろんですが、若い人にアトラクションのノリで楽しんでもらいたい。」
白石監督の参加によってスタッフィングが加速しだした。白石組の面々は安定感のあるスタッフがそろっているが今回の撮影は最小限の体制で臨んだ。また舞台となる廃校を探すのも苦労した。「撮影地として使う廃校は自治体の協力がなければいけない。ホラーとかだと映画として怪しいし、変な噂がたっても困るので協力してくれる学校が限られちゃうのですが、日本初の4DX®ということで社会的な意義を説きまくってなんとかOKもらいました」(ラインプロデューサー:小谷不允穂)
■キャスティング
さらに、問題はキャスティングである。今回主人公は女子高生、ホラーで女子高生といえば鉄板の組み合わせ、安直にとられるかもしれないがフェイクドキュメンタリーという映画の作り方の場合、フェイクであるが故に、この主演の女子高生の演技の出来が作品のリアリティに大きく左右する。主演女優はとても重要な位置を占めている。そこで今作の制作にあたり大々的なオーディションを開催した。
その中でも岡本夏美は際立った存在感であったという。「彼女のまわりに映画のシーンが浮かぶような強い雰囲気がある女優さんでした」(石山プロデューサー)白石監督も、「私は以前ナツミちゃんの初めての映画出演作で監督をしているんですけど、それから3年くらい経って、より気合いが入っているというか、演技に対する集中力が素晴らしかったので彼女を中心に考えようと思いました。」そして渡辺恵伶奈、松本妃代については「恵伶奈ちゃんは夏美ちゃんとも違う方向性の可愛さがあるし、愛嬌があってナツミ&エレナの並びっていうのはすごくいいバランスだなと。そして松本妃代ちゃんに関しては、王道の美少女的ルックスで一見主役的に見えつつ、その後憑かれるという意外性のある難しい芝居を思いきりやってくれそうだったので選びました。」実は、この三人を選ぶ前は役名がつけられていたが、自然なリアクションが肝だと考えていた白石監督の発案により、本名でそのまま演じられることとなった。三人三様の魅力が生み出すコンビネーションが期待された。
また、今回のメインキャラクターとなる廃校の番人のキャラクター作りやキャスティングにも注力したポイントである。「番人は恐怖の案内人です。異様でありつつちょっとユーモアのある感じですが、だんだん恐くなる。「ボクソール★ライドショー」というタイトルに最も合った、怪しげな見世物小屋の主人とか狂った遊園地のピエロといったイメージで作り上げています。」(石山)このキャスティングについて白石監督が語る「大迫茂生さんにやってもらいましたが、彼は他の作品で暴力的なディレクターの役をやってもらっていて、その撮影の時にアドリブで「〜なんじゃないの!?」とちょっと“オネェ言葉”的になるということがあり、割と女性性のある方なのだなと思いました。そして、今回の番人役をオファーした当初は、カマっぽい要素は全然なかったのですが、ピエロ的なニュアンスのある外見をするというところと、キャラクターの強烈さやポップさに加え、愛嬌というものを求められていたので、大迫さんがやるならオネェなニュアンスを入れたらいいなと思って彼に相談したら「おもしろいですね」って言ってくれて。」「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」シリーズの主演俳優が、とんでもないメイクの謎の怪人で作品を盛り立てることとなり、白石作品のファンにとっても期待度満点のキャスティングと言えるだろう。
■暑さと薄気味悪さの中の廃校撮影
撮影は8月後半、伊豆の網代にある網代中学で行われた。伊豆半島の中ほどにある漁業の街にある網代の中学校は港から少し上がった高台の上にある。既に廃校となったこの学校は熱海市フィルムコミッションの山田さん協力によって借りられることとなった。一見普通の中学だが、夜は灯りひとつない真っ暗な状態でなんとも薄気味悪い。「私、本当に怖いのホントだめなんです。だから不安で仕方がなくって。役もそういう役だったので、もうここぞとばかりキャーキャー言ってました」というのは渡辺恵伶奈。恐いだけではない。この時期の猛暑の中、廃校にエアコンは一切ない。昼は汗だく、夜は気味悪いという中で、撮影は3日間の強行スケジュールで、体力気力の消耗戦となった。白石監督はそんな中でも着々と撮影を開始。彼は今回、監督であると共に、「ディレクター田代」という役を演じている。「脱出劇なので役者さんと一緒に走ったり、わめいたり、朝から晩までやってました。とにかく暑かったのがまいった。」と、さすがの白石監督もあまりの暑さに閉口していたが、脚本・監督・撮影・出演までこなしながら、現場で一番元気なのは監督であった。
岡本夏美と渡辺恵伶奈はとにかく走った。岡本夏美は言う。「朝から晩まで走り回り、叫びまくり、戦いまくる、本当に体を張った作品です!観る人には一緒に戦っているかのような、感覚を味わってもらいたい。」
まだ10代ながら周りを気遣い、現場を盛り上げようとするまさしく主演女優の存在感であった。一方、ホラー映画ならではの演技を要求されたのがキヨを演じる松本妃代。「私は呪われる役なんです(笑)。だからもう体当たりでやりました」。撮影も、途中からキヨ役は闇に魅入られた暗黒メイク。黒い液体を吐き出したり、ひっぱられたり、ひきづられたり、インパクトのあるシーンが多かった。「でも出来上がりが楽しみ」と言う。
今回の撮影は真夏に行われただけに体力の消耗が激しかったのは想像に難くないが、仕事とはいえ、同じ部屋に寝泊まりし、修学旅行的な団体行動の中で、独特の連帯感も醸成された。「この作品の裏テーマは“絆”なんです。ナツミとエレナとキヨの友情が強く込められた作品だと思っています!」と渡辺恵伶奈は振り返る。
■伝統と最新技術(特殊造形とVFX)
主演の3人に襲い掛かる魔性の数々。廃校の中でどういう超常現象が起こるのか?楽しみな部分である。もちろん音楽室のオルガンや理科室の人体模型、トイレなど、学校ならではの様々な小道具が恐怖の装置として仕立て上げられている。さらに白石監督は言う。「リアリティを大事にしながら、その土台からどれだけ飛翔するか、飛躍するのかというところを自分はいつも、ホラーに限らず映画では大事にしています。ホラーであれば、どんな新鮮なビジュアルを見せられるか。見せないで怖がらせるんじゃなくて、私の場合は見せて怖がらせる。そして楽しんでもらうというところをいつも大事にしています」そんな白石監督の“怖がらせ”の想いを受けた怪物たちが多種類登場するのもこの作品の見所である。
その特殊造形をおこなったのが土肥良成。「デスフォレスト」『ハロウィンナイトメア』などでも知られる特殊造形のプロである。黒男、白男、ひも男、巨大包帯女と呼ばれる怪物群はカタチも質感も動きも、実に気持ちが悪い。一見黒い饅頭にみえる黒男は目の高さまで飛んだりしてVFXか?と思いきや、中には前衛舞踊など普段やっている役者の曽田明宏が入っており、本人は着ぐるみを着てほとんど何も見えないのに汗だくでジャンプしていたのであった。そして、屋上の出口から、顔だけ突き出す巨大な体の持ち主が包帯女。演じるのは久保山智夏、別段大きくはない。彼女も白石組の常連である。さすがに巨大包帯女のシーンは別撮りのVFXシーンであった。「巨大包帯女のシーン、ミミズのシーンなどは一部別日にVFX撮影をしました。特にミミズのシーンはうちの会社に大量のゴカイと水槽が持ち込まれて、周りからは奇異な目で見られましたね(苦笑)。ゴカイは使用後、ちゃんと海にまいてもらいました!」青木プロデューサー。